真月が怒れば怒るほど、私の方も苛立ちが募り、返す言葉も冷たくなっていく。

「事務員が退職するなんてよくあることじゃない」
「他の事務員とお前を一緒にするなよ!」

間髪入れずに返事が返ってきて、真月が両手で机を叩き立ち上がった。その音に驚いた私が肩をビクッと揺らせば、真月がバツの悪そうな顔でごめんと謝ってきた。

すごすごと座りなおす。

「……悪い。こんな言い方するつもりなかった」
「ううん、私も冷たい言い方しちゃった」

嫉妬していた。
出会ったときは麻子の恋人で、好きになったことに気づいたら、今度は麻子によく似た宮端さんに惹かれた真月。ずっと近くにいるのに届かないその心に、ずっと嫉妬していたから、苛立った。

気持ちを落ち着けるために、康晴さんが淹れてくれたコーヒーに口をつける。

「でも俺にとってお前は特別なのは本当だ。お前がいなくなってから全然、企画が思いつかないんだ」
「うそだ……」
「本当。やっぱり月は太陽がいないと輝けないらしい」

……どうしてそんなことを言う?
あなたにとって大切な人は宮端さんでしょう。

「……それじゃあ、まるで、真月が私を必要としているみたい……」
「必要としているんだよ」

真月は身を乗り出して、カップを持つ私の手にその大きな手を重ねた。

……その手は小刻みに震えていて。
麻子と心を失い、縋り付いてきたあの日の真月を思い出した。

「居なくなってようやく気づいた。俺にとって朝陽は誰よりも大切で、必要としている人」
「……」
「俺は朝陽が好きなんだって」