思わず下を向くと彼の手にある愛する人の《首》を呆然と見る、悲しいとは思わない、思えない、なんだかそれがあるべき姿な気がしてしっくりくる。その自然さに私はこの人を本当に愛していたのだろうかという疑問さえも零れてしまうくらいだ。
「ねぇ姫良、これからどうしよっか。あ、もしかしていまさっき起きたばっかだからお腹空いてる?リビング汚れちゃってるんだけどどうしよっか、外食にする?」
汚れちゃってばっちいからさ、とまたさわやかに笑う彼は何故こんなに綺麗なんだろう、現実味のない世界観に逆に冷静になってしまう。
「うん、そうしよっか。楽しみだなぁ姫良と久しぶりの外食、どうせなら高い所にする?」
「珍しいね、自分以外が作ったものを私に食べさせようとするなんて」
通常ならば彼は姫良が作ったもの以外はなるべく口に入れたくない、だとか俺が作ったもの以外はばっちいから食べないでね、だとか言っているのに
「う〜ん、毎日手料理だと飽きちゃうかなって。それにほら、こんな場所、ばっちい奴が死んだばっちい場所で姫良にご飯を食べさせたくないんだ」
「実にミヤらしい」
「褒めてもらってるんだよね?」
嬉しいな、と周囲に花を散らす彼、そうしていればただの人畜無害の青年だ。他人ならば癒されることこの上ないだろうなと思う。
「じゃあ出かけよっか。
あ、この家にはもう帰ってこないから貴重品は持っていった方がいいよ。服は必要なら俺が買ってあげるから持っていかなくても平気だけど」
「なんでそんなスマートに誘拐するんです」
「段取りを決めておかないと後々大変なんだよ?それに俺は君とずぅっと一緒にいたいからこんな人道を外れることしたんだ。犬に噛まれないようにちゃんと細工もしたさ。」
「………その無駄に良い頭はどうなってるんです」
あきらかに彼がやったと思われる犯行を警察の方にバレないように細工をする、それは生半可な努力では無理なはずだ。
「姫良に褒めてもらうためだよ」
「褒められます?私の愛した人を殺したのはミヤなのに。」
「何言ってるのさ、君が愛してるのは俺だよ、そこにいるのはばっちい人間。君が愛してるのは一生俺で俺が愛してるの一生姫良なんだから。」