「そういえば、先輩が参加された経済甲子園の全国大会、結果はどうだったんですか?」
経済甲子園とは、経済の知識を競うクイズ大会である。タクトが高3の時、数学研究会の浅井という後輩を誘って出場した。タクトたちのチームは、県大会で並みいる強豪を抑えて優勝し、全国大会へコマを進めた。タクトたちは全校集会で表彰され、ちょっとした話題となった。
「44チーム中9位だった。全国大会のレベルは高くてさ、クイズ大会常連のS高校やH学院には全く歯が立たなかったよ」
この話をするとき、ついつい自慢気な口調になってしまう。自分の力で全国大会に出場したという自負があったからだ。2人が通っていた高校は、地元では進学校として知られていたが、全国的には無名である。そんな高校が、全国有数の名門校と同じ土俵で戦ったことに優越感を感じていた。
「でもすごいですよ!全国9位は立派な成績ですって」
サユリは目を輝かす。正式なクイズ研究会がない中で、独自に勉強して全国大会に出場した先輩のすごさを再確認した。
「一緒に出場した数学研究会の方も、経済に詳しいんですか?」
「いや、浅井君は理系だから経済には詳しくないよ。3年生は受験で忙しくて出てくれそうになかったから、後輩を誘ったんだよ。まあ、浅井君が大会にエントリーしてくれたり、大会会場までの電車を調べてくれたりしたから、安心してクイズに集中できたんだけどね。」
私のことを誘ってくれればよかったのに、とサユリは思った。電車の乗り換えを調べることぐらい、私にでもできる。一緒に出場できていたら、どんなに楽しかっただろうか。大会に出場するメンバーを探していることを私に話してくれれば、そう思うと残念で仕方なかった。
机の上のボタンを押して店員を呼び、飲み物のおかわりを注文する。何か食べ物を頼んだらというタクトの提案に乗っかり、サユリはモンブランを注文した。
他愛もない話に花を咲かせていると、いつの間にか16時を過ぎていた。盛り上がっているときの時間は早く進む。サユリは、先輩からどのタイミングで話を切りだそうかと迷っていた。先輩との空間は、良い雰囲気で満たされている。しかし、告白することで、せっかくの空気をぶち壊しにしてしまうのではないかと心配していた。
「もう、こんな時間か。そろそろ帰ろうか」
タクトは腕時計をちらりと見ていう。会う前は何を話していいか不安だったが、意外と盛り上がったなと思った。
「そうですね。今日はわざわざ時間を取っていただきありがとうございました」
先輩との楽しい時間を満喫した。思いがけず、先輩の意外な一面を知ることもできた。しかし、最大の目的は果たせなかった。消化しきれない思いを胸に、サユリは帰りの電車に乗った。
経済甲子園とは、経済の知識を競うクイズ大会である。タクトが高3の時、数学研究会の浅井という後輩を誘って出場した。タクトたちのチームは、県大会で並みいる強豪を抑えて優勝し、全国大会へコマを進めた。タクトたちは全校集会で表彰され、ちょっとした話題となった。
「44チーム中9位だった。全国大会のレベルは高くてさ、クイズ大会常連のS高校やH学院には全く歯が立たなかったよ」
この話をするとき、ついつい自慢気な口調になってしまう。自分の力で全国大会に出場したという自負があったからだ。2人が通っていた高校は、地元では進学校として知られていたが、全国的には無名である。そんな高校が、全国有数の名門校と同じ土俵で戦ったことに優越感を感じていた。
「でもすごいですよ!全国9位は立派な成績ですって」
サユリは目を輝かす。正式なクイズ研究会がない中で、独自に勉強して全国大会に出場した先輩のすごさを再確認した。
「一緒に出場した数学研究会の方も、経済に詳しいんですか?」
「いや、浅井君は理系だから経済には詳しくないよ。3年生は受験で忙しくて出てくれそうになかったから、後輩を誘ったんだよ。まあ、浅井君が大会にエントリーしてくれたり、大会会場までの電車を調べてくれたりしたから、安心してクイズに集中できたんだけどね。」
私のことを誘ってくれればよかったのに、とサユリは思った。電車の乗り換えを調べることぐらい、私にでもできる。一緒に出場できていたら、どんなに楽しかっただろうか。大会に出場するメンバーを探していることを私に話してくれれば、そう思うと残念で仕方なかった。
机の上のボタンを押して店員を呼び、飲み物のおかわりを注文する。何か食べ物を頼んだらというタクトの提案に乗っかり、サユリはモンブランを注文した。
他愛もない話に花を咲かせていると、いつの間にか16時を過ぎていた。盛り上がっているときの時間は早く進む。サユリは、先輩からどのタイミングで話を切りだそうかと迷っていた。先輩との空間は、良い雰囲気で満たされている。しかし、告白することで、せっかくの空気をぶち壊しにしてしまうのではないかと心配していた。
「もう、こんな時間か。そろそろ帰ろうか」
タクトは腕時計をちらりと見ていう。会う前は何を話していいか不安だったが、意外と盛り上がったなと思った。
「そうですね。今日はわざわざ時間を取っていただきありがとうございました」
先輩との楽しい時間を満喫した。思いがけず、先輩の意外な一面を知ることもできた。しかし、最大の目的は果たせなかった。消化しきれない思いを胸に、サユリは帰りの電車に乗った。

