「あのぉ、大学生活って楽しいですか?」
 サユリは、緊張から背筋がピンと伸びている。
「うん。高いレベルの知識が得られるから楽しいよ」
 タクトは、無理をしているのが自分でも分かっていた。水は低きに流れる。授業や周りの学生のレベルが低すぎて、自堕落な生活に片足を突っ込んでいる状態だ。ただ、後輩の手前現状をそのまま話したくはなかった。
「そうなんですか。すごい真面目に勉強しているんですね」
「いや、そんなことはないよ。遊びにも行くし」
 古葉さんに対して、どういうスタンスで話せばいいのか分からない。
 お互い、探り合うような会話が続く。微妙な空気が2人の間に流れる。
 会話が途切れたタイミングで、店員が飲み物を運んでくる。それをきっかけに、会話が進み始めた。会計委員会の思い出や、変わり者の古典教師の話などで盛り上がる。タクトは、ずっと気になっていたことを切りだした。
「あのぉ、その服小学生の頃から着てたんですか?」
「えっ、どうしてですか。去年買ったものですけど……」
 サユリは、思いもよらない質問に戸惑う。
「いや、右腕の袖が破れていたから……ご、ごめんなさい。失礼なこと言っちゃったかな。お金がなくて、服とか買えないのかなと思って……」
 一拍おいて、サユリが笑い声をあげる。賢そうな先輩と、的外れな言葉とのギャップに可笑しさがこみあげてきた。
「先輩、こういうデザインなんですよ!まさか、お金がなくて昔の服を着てたと思ったんですか。フフッ、私はそんなに貧乏じゃないですよ」
 ツボに入ったのか、笑いが止まらない。
「本当にごめん。そういうデザインってことを知らなくて、心配になっちゃって。そういう服だったんだ、安心したよ」
 タクトは、申し訳ないことを言ってしまったなと反省する。
「いいんですよ。先輩面白いですね」
 この会話がきっかけで、話が弾んでいった。何でも知っていそうな知的なイメージのタクトが、現代の流行についてほとんど知らないことは、サユリにとって意外だった。そう言った部分を見つけようとして、他愛もない会話を重ねた。流行りのアイドルや俳優、SNSのことなど、ほとんど知らなかった。頼りがいのある先輩にもこういった一面があることを知り、サユリはますますタクトの魅力に惹かれていった。