(お誘いありがとうございます。あさっての午後2時に、K駅待ち合わせということで大よろしいでしょうか?)
サユリは、スマートフォンの画面を見て舞い上がった。すぐに返信を送る。
(もちろんです。わざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます。)
先輩とのやりとりがLINEを介したもので良かったと思う。もし電話だったら、嬉しすぎてまともな会話にならなかっただろう。何を話そうか、何を着ていこうか。今から、あさってのことで頭がいっぱいだった。委員会の仕事を丁寧に教えてくれたこと、細かなことに気を配ってくれたこと、ひとつひとつの場面が頭の中によみがえる。
高2のとき、書道部だったサユリは文化祭に向けて、篆書(注1)と呼ばれる歴史ある書体を用いた作品を書き上げた。ダイナミックで味のあるサユリの自信作は、3年生の部長にも認められ、人目につきやすい入り口付近に展示された。
文化祭の当日、サユリは書道室で受付をしていた。焼きそばの屋台やお化け屋敷に客を奪われたせいか、書道室にはほとんど人が来なかった。スマートフォンを見て暇つぶしをしていると、来客がやってくる気配がしたので、あわててスマートフォンをポケットにしまう。久々にやってきた客の顔を見て、サユリの胸が一気に高鳴った。来客の正体は長谷川先輩だった。
「あっ、長谷川先輩!」
驚きから声がかすれてしまった。
「暇だったから見に来ました。古葉さんの作品はどれですか?」
「あっ、その作品です」
あわてて自分の作品がかかっている壁を指さす。
「あっ、これか。書道に詳しくない僕が言うのも失礼かもしれないけど、繊細で趣のある作品だね。これを完成させるの大変だったでしょ」
「いえ、全然失礼なんかじゃないです。ほめていただき、ありがとうございます」
胸の鼓動がさらに速くなる。
「40枚くらい練習しました。字の特徴をつかむのに苦労したんですけど、書いていくうちにコツを掴めました」
「すごいね!40枚も練習するなんて。僕なんて、書き初めの課題が出ても1枚しか書かないで提出するのに」
タクトは笑いながら言う。
「まあ、普通はそうですよね。書道部の先輩にはもっと練習する人もいるんですよ」
長谷川先輩と委員会以外の話をしたことで、サユリは完全に舞い上がっていた。
「へえ、書道部には真面目な人が多いんだね。それじゃ、失礼するよ」
そう言うと、タクトは書道室から出ていった。
わずか5分足らずの出来事だったが、サユリにとっては永遠のように長く感じた。
考えてみれば、長谷川先輩と委員会以外の話をしたのは文化祭のときくらいだ。先輩と会ったところで、果たしてまともに会話が続くだろうか。いや、思い出話で時間がもつはずがない。ならば、いっそのこと告白してしまおう。サユリは、一気に決意を固めてしまうと、告白するシチュエーションについて考えを巡らした。
(注1)篆書 周時代末期に使用された書体。同じ太さの線で描かれるのが特 徴。
サユリは、スマートフォンの画面を見て舞い上がった。すぐに返信を送る。
(もちろんです。わざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます。)
先輩とのやりとりがLINEを介したもので良かったと思う。もし電話だったら、嬉しすぎてまともな会話にならなかっただろう。何を話そうか、何を着ていこうか。今から、あさってのことで頭がいっぱいだった。委員会の仕事を丁寧に教えてくれたこと、細かなことに気を配ってくれたこと、ひとつひとつの場面が頭の中によみがえる。
高2のとき、書道部だったサユリは文化祭に向けて、篆書(注1)と呼ばれる歴史ある書体を用いた作品を書き上げた。ダイナミックで味のあるサユリの自信作は、3年生の部長にも認められ、人目につきやすい入り口付近に展示された。
文化祭の当日、サユリは書道室で受付をしていた。焼きそばの屋台やお化け屋敷に客を奪われたせいか、書道室にはほとんど人が来なかった。スマートフォンを見て暇つぶしをしていると、来客がやってくる気配がしたので、あわててスマートフォンをポケットにしまう。久々にやってきた客の顔を見て、サユリの胸が一気に高鳴った。来客の正体は長谷川先輩だった。
「あっ、長谷川先輩!」
驚きから声がかすれてしまった。
「暇だったから見に来ました。古葉さんの作品はどれですか?」
「あっ、その作品です」
あわてて自分の作品がかかっている壁を指さす。
「あっ、これか。書道に詳しくない僕が言うのも失礼かもしれないけど、繊細で趣のある作品だね。これを完成させるの大変だったでしょ」
「いえ、全然失礼なんかじゃないです。ほめていただき、ありがとうございます」
胸の鼓動がさらに速くなる。
「40枚くらい練習しました。字の特徴をつかむのに苦労したんですけど、書いていくうちにコツを掴めました」
「すごいね!40枚も練習するなんて。僕なんて、書き初めの課題が出ても1枚しか書かないで提出するのに」
タクトは笑いながら言う。
「まあ、普通はそうですよね。書道部の先輩にはもっと練習する人もいるんですよ」
長谷川先輩と委員会以外の話をしたことで、サユリは完全に舞い上がっていた。
「へえ、書道部には真面目な人が多いんだね。それじゃ、失礼するよ」
そう言うと、タクトは書道室から出ていった。
わずか5分足らずの出来事だったが、サユリにとっては永遠のように長く感じた。
考えてみれば、長谷川先輩と委員会以外の話をしたのは文化祭のときくらいだ。先輩と会ったところで、果たしてまともに会話が続くだろうか。いや、思い出話で時間がもつはずがない。ならば、いっそのこと告白してしまおう。サユリは、一気に決意を固めてしまうと、告白するシチュエーションについて考えを巡らした。
(注1)篆書 周時代末期に使用された書体。同じ太さの線で描かれるのが特 徴。

