古葉さんすごいな。それがタクトの率直な感想だった。古葉さんが合格したZ大学といえば誰もが知る一流大学であり、卒業生の多くは官僚や弁護士、大企業への就職といった道に進む。その中でも、最難関といわれる法学部に合格したのだから、そうとう受験勉強を頑張ったのだろう。とりあえず、月並みな祝福メッセージを送る。
 
 タクトも勉強は得意な方だった。模試を受けても、偏差値60を下回ったことはない。担任や進路指導の先生からも、難関大学を狙えると言われ続けた。しかし、偏差値ばかりを求めて勉強することに嫌気が差し、家の近くにあるP大学を第一志望に据えた。P大学とは、入試で名前さえ書けば合格になるような、いわゆる底辺大学である。進路面談では親や担任に猛反対されたが、会計を学ぶのに大学のブランドは関係ないと押し切った。将来は会計士になるんだと意気込み、周りが受験勉強している中、簿記の勉強に勤しんだ。
 P大学の試験問題は、簡単すぎて退屈なものだった。タクトが1年生の時に受験していても、7割程度正解できただろう。合格発表のとき、自分の受験番号を見つけても大して喜ばなかった。むしろ、ここからが本当の勝負だと思っていたのである。
 特待生としてP大学に入学したタクトは、着実に勉強を重ね、日商簿記の2級を取得した。大学の授業でも、他の人とは違った考え方を発言し、同級生や教授からも一目置かれる存在になった。しかし、順風満帆な学生生活は長く続かなかった。底辺大学であるため、志の低い学生が大半を占める。そのような学生たちに引っ張られ、勉学への意欲がそがれてしまい、秋学期には授業もさぼりがちになっていた。ただ、授業のレベルが低かったので、進級に必要な単位は難なく取ることができた。
 
 古葉さんにメッセージを送ったあと、スマートフォンのゲームに興じていると、LINEの通知が届いた。内容を確認すると、どこかで会いたいと書いてある。思い出話といっても、古葉さんとは委員会活動をしたくらいしか話せることがない。かといって、大学生活に向けてのアドバイスなどできるはずがない。底辺大学に進み、自堕落な生活を送っている人物の言葉に1ミリの価値もないだろう。直接会ったところで、いったい何を話せばいいのだろうか。いろいろと考えたうえで、古葉さんへ返事を送る。