スマートフォンの通知を見て驚いた。長谷川先輩からLINEのメッセージが届いていたのだ。胸の鼓動が高鳴る中、すぐにスマートフォンのロックを解除して、LINEを開く。内容は、受験勉強に対する応援メッセージだった。長谷川先輩は私のことを気にしていてくれたんだ。そう思うと、たまらなくポカポカとした感情が湧きあがってきた。文面を最後まで読み終えると、あわてて返信文を作成し送信する。送信ボタンを押してから、ありきたりな文章になってしまったことに気づいた。せっかく先輩からメッセージが届いたのだから、もっと気の利いた返事を送ればよかったのにと後悔した。
 書道部を引退してからの半年間、毎日のように夜遅くまで勉強を頑張った結果、サユリは都内の有名私立大学に合格することができた。両親や仲の良い同級生、担任の先生への報告をひと通り終え、骨身を削った受験勉強への労を自らねぎらった。
 入学に関する手続きが一段落すると、合格したことを長谷川先輩へどのように報告すべきか考えた。もしかしたら、先輩と連絡をとる最後のチャンスかもしれない。慎重に文面を検討したが、結局第一志望の大学に合格したことを報告するだけのシンプルな内容になってしまった。
 翌朝、サユリがスマートフォンの電源を入れると、先輩からの返信が来ていた。

(合格おめでとう。ここからが本当のスタート地点です。いろんなことにチャレンジして、後悔のないように学生生活を楽しんでください)

 後悔のないようにという部分に目がとまった。すでに会計委員会の委員長を引退しているので、委員会の仕事について尋ねることはできない。このまま時間が経てば、長谷川先輩と連絡を取る口実がなくなってしまうのだ。むろん、適当な口実を付けてLINEのやり取りをすることはできるが、不自然な印象を与えてしまうだろう。もしかしたらブロックされてしまうかもしれない。チャンスは今しかない。5分ほど考えた末、文章を作成する。
 
(今度、どこかの喫茶店で会いませんか?思い出話に花を咲かせたいです。場所は、長谷川先輩の都合が良い場所でいいですよ)
 
 文面を打ち終えたところで少し迷いが生じた。委員会の仕事でしかつながりのなかった先輩を、あからさまに誘っていいのだろうか。しかし、このまま何もしなければ後悔をするだけだ。数秒ためらった後、意を決して送信ボタンを押した。