終われない青春

「この前はごめんなさい」
 タクトは、待ち合わせ場所にやってきたサユリにむかって、深々と頭を下げる。
「そんなに気にしないでください。別に怒ってないですから」
 サユリは笑顔を浮かべて、怒っていないことをアピールする。
「ありがとう。ところで、古葉さんはお昼ご飯食べました?」
「まだ食べてないです」
 14時待ち合わせだったので、何か食べてこようかと思ったが、先輩とランチする展開も期待して食べないでおいた。
「じゃあさ、どこかでご飯食べましょうよ。実は、僕もお昼ご飯を食べていないんです」
 2人は、イタリアン料理のお店で遅めの昼食をとることにした。
 店内のオシャレな内装が、2人の間に流れる緊張感を増長させる。
「ボンゴレビアンコを2つ」
 タクトには、ボンゴレビアンコが何なのか見当もつかない。ただ、好き嫌いは少ないので、食べられないということはないだろう。そう思って、古葉さんと同じものを注文した。
「先輩、ボンゴレビアンコ知っているんですか?」
 ハイカラな料理に詳しくなさそうな先輩が何も訊かずに注文したので、クイズにでも出てくるのかと思った。
「いや、実は知らないんだ。古葉さんが注文したから、不味いものではないだろうと思って……」
 サユリの顔に笑みが浮かぶ。やっぱりだ。先輩は、何でもないことで見栄を張るきらいがある。サユリは、心の中でタクトの性格を分析する。
 10分後、ウェイトレスがワゴンに載せた料理を運んでくる。平べったい皿の上には、貝がのったパスタが盛られていた。これがボンゴレビアンコか。美味しそうではないけど食べられないほどではないだろう、というのがタクトの正直な感想だった。
 謎のパスタを口に入れてみる。薄くて何の味なのか分からない。しかも、貝殻が邪魔をして食べづらい。やっぱりこういう店は向いてないな、とタクトは感じていた。美味しそうにボンゴレビアンコを食べている古葉さんを見て、この店に馴染んでいるなと思った。
「ここは僕が払うよ」
 財布を取り出そうとしたサユリを止めるように、タクトが言う。
「いや、大丈夫ですよ」
「前回のお詫びってことで、おごらせて」
 タクトは伝票をレジに持っていき、なかば強引に2人分支払った。
 店を出ると、ショッピングエリアを歩きまわった。サユリは雑貨やお土産物を楽しそうに見ていたが、タクトは心ここにあらずという様子だった。タクトは、腕時計を見て16時になったのを確認すると、大桟橋に行こうとサユリを誘った。