終われない青春

「あの……友人の次のステージにまで進んでくれませんか!」
 言ってしまうと、少し肩の荷が下りた気がした。
「友人の次のステージって何?」
 とぼけている様子ではない。それが長谷川先輩という人物なのだ。
「えっと……恋人になってください、という意味です」
 サユリの顔がほんのり赤く染まる。タクトは少し考えた様子で答える。
「ごめん。無理だよそれは……」
 タクトは悲しそうな顔を浮かべる。
「私には至らないところばかりですが、もっと先輩に楽しんでもらえるように努力します。なので、どうか……」
 そうじゃなくて……タクトはサユリの言葉を遮って話し始める。
「古葉さんは素晴らしい人だと思うよ。気遣いはできるし、話していて楽しいよ」
 いったん言葉を切り、ペットボトルのお茶に口をつける。
 正直に話さなければいけない、と覚悟を決めた。
「実は僕、ギャンブル依存症なんだよ。いまや暇があると競馬や競輪のことばかり考えてしまう。ギャンブルをしていないと落ち着かなくて、毎月給料の大半をギャンブルに使ってしまうんだ。だから、古葉さんには釣り合わないよ。古葉さんなら、もっといい人を見つけられるはずだと思う」
 タクトの眼には悲しそうな光が浮かんでいた。古葉さんは素晴らしい人だ。できれば友人であり続けたい。しかし、恋人となると話は変わってくる。すさんだ生活に古葉さんを巻き込むわけにはいかなかった。
「ごめん。本当にごめん……」
 言い終わるのと同時に、小走りでその場を立ち去った。古葉さんの表情を見たくなかったし、何も言ってほしくなかった。
 パチンコ屋の騒音をもってしても、タクトの気持ちが洗い流されるくれることはなかった。過剰すぎるリーチの演出も、今日に限っては虚しいだけだった。大当たりを出したため、店外の換金所(注1)に立ち寄る。2時間足らずの間に4万円を稼いだというのに、気持ちは沈んだままだった。
 終電で家に帰ってきたため、夜中の1時を回っていたが、なかなか寝付けない。頭の中は神宮球場のあのシーンで止まっていた。あの場面での正解は何だったのだろうか?いや、すでに人生の歯車が狂っていたのだから、正解なんてあるはずがなかった。布団に入って眠りに落ちたときには、すでに太陽が昇り始めていた。

(注1)店外の換金所 わが国において、賭博は禁止されているため、パチンコ屋では特殊景品という板切れのようなものが渡され、店外に設置された古物商という、この仕組みを、三点方式と呼ぶ。