終われない青春

「細川たかし」
 北酒場でレコード大賞を受賞、と聞いたら細川たかししかない。タクトは自信をもって答える。
 ピンポンピンポン……
 趣味で演歌を聞いているタクトにとって、これはサービス問題だった。
「P大学の長谷川さんが、このラウンド最初の問題を正解しました」
 やっぱり長谷川先輩はすごいな、とサユリは改めて思った。
 その後もタクトは正解を重ねていき、このステージを突破した。
「勝ち抜けるなんてすごいですね!」
 サユリは、戻ってきたタクトに話しかける。
「いや、たまたま得意な分野の問題が続いただけだよ」
 謙遜したわけではなく、本心からでた言葉である。演歌と競馬の問題が出てなかったら勝ち抜けられなかっただろう。こういうとき、自分は何かを持っているんだと実感する。

「お昼ご飯これだけで足りるんですか?」
 タクトが買ったチー鱈を見て、サユリが尋ねる。2人は昼休憩の時間に、近くのコンビニまで昼食を買いに来ていた。
「大丈夫。大会の時は、食べ過ぎないようにしているんだよ。食べ過ぎると眠くなってしまうからね」 
 最近のタクトは、昼ごはんをあまり食べなくなった。お昼を抜くことも珍しくない。その分、夜にたくさん食べるようになっていた。サユリの方は、サンドイッチや菓子パンなどを買っていた。
 会場に戻ると、スマートフォンで競馬中継を聴きながらチー鱈をかじる。午後からのクイズに向けて、集中力を高めているのだ。一方、午前中で敗退してしまったサユリは、楽しそうにサンドイッチをかじっている。まるでピクニックに来たかのようなはしゃぎぶりである。
「キャミソール(注1)」
……ピンポンピンポン
 この瞬間の興奮がよみがえる。サユリが今日答えられた問題はこの一問だけであったが、大満足の結果だった。先輩はキャミソールなんて聞いたことがないよ、と言っていた。まあ、ノースリーブ(注1)を知らなかったのだから、キャミソールを知らなくてもおかしくはない。ここからは、得意分野の偏った先輩を応援することに専念しよう。
 タクトにとっての本当の勝負はこれからだ。

(注1)キャミソール・ノースリーブ どちらも女性向けの衣類。主に夏場に着   られる。