終われない青春

 古葉さんとは価値観が違いすぎるのではないか、とタクトは感じていた。友人になるといっても、お互いのベクトルが離れすぎていては心から楽しめないのだろう。そもそも、古葉さんはなぜ俺なんかと付き合いたいと思ったのか。しばらく考えてみても、一向に答えが出なかった。
 友人になることを承諾してしまったのだから、とりあえず返信を送らなくてはいけない。行きたい場所を教えてくれといわれても、まさか競馬場というわけにはいかない。そもそも、一般的な女学生はどんな場所で遊んでいるのだろうか。自分の行動範囲の中から、古葉さんを誘っても差し支えなさそうな場所を選んで、LINEの返信を送る。

(再来週の日曜日にクイズ大会があるんですが、一緒に出場してみますか?場所はM市で、時間は11時開始です。興味があったら返信ください)

 古葉さんは、文化祭の早押しクイズでも楽しそうにしていたので、クイズ大会なら出場してみる気になるかもしれない。
 今度のクイズ大会は千葉県にゆかりのある学生向けの大会で、40人ほどの参加者が集まる見込みだ。社会人が参加する大会は問題のレベルが高すぎるため、タクトでもほとんど答えられない。なので、最近は学生向けの大会を中心に出場している。今度の大会は、学生向けの大会であるということにくわえ、千葉県にゆかりのある学生という条件付きなので、上位に進出するチャンスがある。

 タクトが駅の改札を出ると、すでに古葉さんは到着していた。「おはよう」と挨拶を交わし、早速大会の会場に向かう。
 サユリはタクトからのメッセージを読むと、すぐに参加したいという旨の返信を送った。文化祭の早押しクイズを思い出してワクワクした。いや、正確にはタクトと会えることが楽しみで仕方がなかったのだ。
 会場の入り口で受付を済ませると、ホールの中に入る。席は指定されていないので、2人は後ろの方の席に並んで座る。開始まで時間があるので、受付で配付された企画書を読んでいると、「シングルチャンス形式って何ですか?」と隣に座っている古葉さんが尋ねてきた。
「シングルチャンスというのは、早押しクイズで最初に押した人が間違えた時、他の人には解答権が移らないという形式だよ。ただ、間違えたら減点されるから、むやみに押していいというものではないよ」
 そうか。普段クイズをやらない人には、ルールが分かりづらいんだ。そんなことに今更ながら気づいた。そういえば、俺もクイズ大会に出始めたばかりの頃は慣れないことが多かったな、と昔の自分を懐かしむ。
 開会を宣言するアナウンスが場内に響き渡る。