終われない青春

 えっ……付き合う?彼氏?
 タクトはLINEのメッセージを読んで困惑していた。これまでの人生で誰かに恋心を抱いた経験はゼロ。そもそも、恋愛というものに興味がない。どうしたらいいのだろう。古葉さんにはどのような返事を送るべきなのか、しばらくの間考えてみた。古葉さんを傷つけないよう、文章の端々まで注意して最大限の配慮をしたメッセージを送信した。

(僕のことを褒めてくれてありがとうございます。古葉さんの想いは、しっかり伝わりました。しかし、私は今まで恋愛をしたことがないため、付き合うということがどういうことか分かりません。古葉さんの想いに応えられなくて申し訳ありません。しかし、古葉さんならもっと素晴らしい人に巡り合えると思います)

 恋愛とは茶道のようなものだと考えている。茶道には表千家と裏千家がある(注1)ことぐらいは誰でも知っている。しかし、表千家や裏千家が具体的にどういう流派かを知っている人は、少数派であろう。恋愛というものの存在自体は知っているが、中身についてはほとんど知らない、興味がないということである。言いえて妙な表現だ、と我ながら感心する。
 それにしても、古葉さんが自分に対して好意をもっていたとは意外だった。幼いころから内気な性格で、人づきあいが苦手だった。小学生の頃などは、相手に合わせることばかりを考えて、自分らしさを出せなかったこともあった。その反動もあったのか、現在では自分の主張を前面に押し出すような性格になっていた。そんな性格が原因で、周りの人から嫌われることもままあった。古葉さんは、僕のことを気配りができる人だと思っているようだが、それは的外れだと思う。あくまで委員会の後輩だったからであり、いつも周りに気を配っているわけではない。また、大学生になってからわがまま度が増しているのを実感している。
 スマートフォンでオセロのネット対戦をしていると、メッセージの通知がきた。サユリからの返信だ。オセロの負けが確定すると、すぐにLINEを起動した。

(注1)表千家と裏千家 正確には、表千家と裏千家と並んで武者小路千家が存   在し、合わせて三千家と呼ばれている。ちなみに、千家の千とは千利休の   ことである。