サユリは自分の部屋でTVを眺めている。TVの中では、有名大学を卒業した“インテリ芸能人”たちによるクイズ対決が繰り広げられていた。クイズ番組を観るたびに、長谷川先輩のことを思い出す。早押しボタンの前で息を殺し、読み上げられる問題を遮るようにボタンを押す様子は、さながら獲物を狙う狩人であった。クイズ番組を観ているうちに、無性に長谷川先輩とやりとりしたくなった。サユリは、ある決意をもってスマートフォンの電源を入れた。

(長谷川先輩、先日のクイズは楽しかったです)
(先輩に本気で聞いてほしいことがあるんですけど、いいですか?)
 
 何だろう……。
 タクトは、古葉さんからのメッセージを見て不思議に思った。古葉さんにはもっと親しい友人もいるだろうに、わざわざ俺に相談したいこととは何なのか。いくら考えてみても、何も思いつかない。それにしても、文中の「本気」という言葉が気になる。

(いいですよ)
 
 タクトの返事を見て、サユリは練りに練った文章を打ち込む。

(実は長谷川先輩と一緒に委員会の仕事をしていた頃から、先輩の気配りができる部分に魅かれていました。また、先輩と話をするといつも新たなことに気づかされ、楽しい気分になれます。先輩との楽しい時間をたくさん過ごしたいので、私とお付き合いしていただけませんか?私も、長谷川先輩を幸せにするために精一杯頑張るので、どうか私の彼氏になってください)
 
 もう一度文章を確かめ誤字脱字がないか入念に確認してから、祈りを込めて送信する。いつ長谷川先輩からの返信がくるのか、結果はどうだろうか。サユリは、期待と不安が同時に押し寄せてくる感情の波に呑み込まれそうになっていた。しばらくスマートフォンの画面を見つめていたが、先輩からの返事はいつも時間が経ってからくるため、部屋の片づけをすることにした。こういうときは、何かしていないと落ち着かないものだ。気分が昂っているのか、本の背表紙がわずかにずれていることさえ気になってしまう。
 部屋の片付けが一段落したのでスマートフォンを確認してみるが、先輩からの返信は届いていない。夕飯ができたと母親の声がしたので、1階のリビングに向かった。