「北と、」
 ピコピコ―ン……早押しボタンの音が、室内に鳴り響く。
 押したのはタクトだった。
「北微東」
 一瞬、場に静寂が走る。サユリは、長谷川先輩が自信満々に答えたことに驚く。ほかの二人の解答者も、タクトの解答に驚いているようだった。
 ピンポンピンポン……正解を示す効果音が鳴り響く。問読みの人が、問題の続きを読み上げる。
「北と北東の間にある方角といえば北北東ですが、北と北北東の間にある方角といえば何でしょう?」
 北より微妙に東寄りなので北微東ということですね、と司会の人がフォローする。タクト以外の三人は、置き去りにされているような気分だった。
 問題は進み、パネルがタクトの色に染まっていく。サユリは、長谷川先輩ってすごいなと実感するとともに、自分も一問くらい答えてみたいと思っていた。
 第八問。
「あごの先から耳の中心を通る線の延長線上にある結び目はゴールデンポイントと呼ばれ最も見栄えが良いとされる、」
 ピコピコ―ン……解答権を得たのはサユリだった。
「ポニーテール(注1)」
 多分正解だとは思うが、ドキドキしてしまう。
 一瞬の間が空いたのち、効果音が鳴り響く。正解であることが確定した。たった一問正解しただけなのに、サユリの心は大きく弾んでいた。「クイズってこんなに面白いんだ」サユリは、早押しクイズの魅力にひきこまれていた。
 その後、サユリは女優の問題にも正解することができた。最終的にはパネルのほとんどがタクトの色になっていたが、早押しクイズを体験できたので大満足だった。

「古葉さんすごいね。ポニーテールなんて言葉知らなかったよ」
 真顔で言うタクトを見て、サユリは思わず吹き出してしまった。
「先輩、ポニーテール知らなかったんですか!」
 タクトがファッションに興味がないことは知っていたが、まさかポニーテールを知らないとは思わなかった。
 早押しクイズの話をしていると、エプロンをつけたウェイトレスが二人のもとにパスタを運んできた。サユリの後輩のクラスがパスタ屋を出しているということで、この模擬店にやってきた。タクトは、高校生の時に一度も模擬店に足を運ばなかったので、文化祭の新しい一面を知れた気がした。
 模擬店を出ると、お化け屋敷に行かないかとサユリに誘われた。しかし、競馬のメインレースを見たかったので、用事があると言ってサユリと別れ、競馬場に向かう。

(注1)ポニーテール 髪を後頭部で一つにまとめて垂らした髪型。主に髪の長   い人に見られる。