立ち去る優の背中をポカンとしながら見つめる。
『俺の婚約者にとんでもないことをしてくれたな』って、なに?
『俺への恨みからだろうが』って、どういうこと?
ふたりの間になにかがあったってこと?
それを私のせいにされてる……?
「ふ、ふざけないでよ……」
こっちはボロボロになるまで傷つけられて、必死の思いで優のことを忘れたというのに。
できればもう二度と関わりたくないとさえ思っていたのよ?
今さらどうこうするわけないじゃない。
私がいったいなにをしたっていうの?
煮え切らないモヤモヤが胸の中を埋め尽くしていく。
覚悟しておくんだなって言ってたけど、私になにかするつもりなんだろうか。
背後から足音がして、ハッとする。
振り返ればそこに、涼やかな瞳で優を見下ろす篠宮先生がいた。
「お、お疲れ様です……」
「ああ」
さっき優と一緒だったところ、見られた……?
内心焦ったけれど、取り繕うように笑顔を貼りつけた。
どうか見られていませんように。って、どうして私がここまで焦らなきゃいけないの。
べつに篠宮先生とは付き合ってるわけでもなんでもないんだから。
一緒にいるところを見られたって、関係はないはずだ。それなのにどうしてか悪いことをした気分になって落ち着かない。
「で、では、私はこれで失礼します」
「帰るのか?」
「はい……」
「奇遇だな、俺も今から帰るところだ」
今度は逆に手を握られて引っ張られる。篠宮先生は車じゃないのだろうか。駅のほうへ向かって歩いており、人通りが多くなってきた。
いったいどこへ向かっているんだろう。なんて、自分から歩き出しておいてそんなことを思う。
「時間はあるか?」
「え? あ、はい」
「近くにオススメの店があるんだ」
オススメのお店……?
こんな時に食欲なんてあまりないけれど、このまま帰る気にもなれない。



