そういえば、そういうことになっていたんだっけ。そんなことも忘れてしまうほど、毎日が多忙すぎた。いや、優のことなど頭になかった。
「どうやって取り入ったんだよ?」
「…………」
「彼がきみみたいな一般人を相手にするはずがないからね。ただの気の迷いだと思いたい。そうでなければ、先生の女を選ぶ目を疑うよ」
見下すようなバカにするような視線。
優は遠回しに、私と篠宮先生が釣り合っていないと言っている。それにしてもあまりにも失礼な言い分ではないか。まるでダメ女の烙印を押されたみたい。
卑しい笑みを浮かべて、狡猾でずる賢い。優はこんな顔で笑う人だっただろうか。
「私のことはどう言ってくれても構わないけど、篠宮先生を悪く言うのはやめて下さい」
はっきりそう告げると、気に障ったのかフッと鼻で笑われた。感じが悪いったらありゃしない。感情的になってしまいそうなのを拳を握ってグッと耐える。
「ふんっ、そんなことを言ってられるのも今のうちだ。どうせすぐに飽きて捨てられるのがオチだからな」
「どうしてそこまで私に構うの? 嫌いなら放っておいてよ」
本当はもっと言い返してやりたいところだけど、冷静になれ。感情的になったら負ける。
少なくとも彼はMIYAMOの営業マンで、口の巧みさは私よりも上。
「白々しい。自分がしたことを忘れたのか?」
悪意のこもった目を向けられ、なにも言い返せない。
なんのことを言っているのかわからなくて、思わず眉間にシワが寄る。
「俺の婚約者にとんでもないことをしてくれたな。俺への恨みからだろうが、きみのしたことは許せない。覚悟しておくんだな」
「待って、意味がわからないわ。なにを言ってるの?」
「しらばっくれるなよ、全部わかってるんだ。自分だけ幸せになるなんて許さない」
そう吐き捨てると優は踵を返してこの場から立ち去った。



