「え? 柚のお父さん?」

コクリと頷き、涙がこぼれそうになるのを唇を噛んで耐える。爽子はそんな私を見て、柔らかい笑みを浮かべた。

安心感のある落ち着いた笑顔だ。

「信じて待っててあげて」

大丈夫だよなんて簡単に言えないことを爽子はよく理解している。そのひとことに、私にできることはそれくらいしかないと思い知らされた。

泣いてる場合じゃない。しっかりしろ、私。

お父さんが乗ったストレッチャーが処置室へと消えて行くのを見送ると、壁沿いに置いてあった長椅子に膝から崩れ落ちた。

全身が小さく震えていて、思わず両手でギュッと自分の肩を抱きしめる。異変に気づいた時点で病院に連れて行ってれば、ここまで大事にはならなかったのかもしれない。

もしもお父さんになにかあったら、そう思うと気が気じゃなくて、激しく動揺してしまう。

お兄ちゃん家族とお母さんもすぐに到着して、しばらくすると爽子が出てきてミーティングルームへ案内される。

「腹部レントゲンとCTの結果、消化器系の疾患だってわかったから篠宮先生にコンサルしたの。先生が診てくれて、そしたらすぐにご家族を呼んでくれって」

私にだけコソッと耳打ちすると、爽子は口元をゆるめてまた笑う。