溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜


時間がない中、ふたりにそう言われて反論なんてできなかった。救急車はすぐに出発し、サイレンの大きな音を周囲に響かせる。

救急車内での出来事はおぼろげで、ほとんど記憶にない。気づくと私は涙を浮かべながらお父さんの手を握っていた。

看護師という職業柄、こんなことには慣れているはずなのに、自分の家族が相手じゃとても冷静になんてなれない。

不安と緊張で押し潰されそうな中、救急隊員に肩を叩かれてハッとした。

「搬送先が決まりました、帝都大です。他のご家族にもすぐに連絡を」

「はは、はい」

震える指先でスマホを操作してお兄ちゃんにメッセージを送る。

病院に着くまでの間、気が気じゃなくて私はお父さんの手を握り続けた。

「ストレッチャー、出まーす」

入口に待機していた数人の医療スタッフが、救急車のドアが開いてストレッチャーが出てくると、一斉にお父さんの周りを取り囲んだ。

手際よく分担して必要が処置がなされている間にも、救急処置室へと向かってストレッチャーは進んで行く。

「あれ? 柚?」

その中に爽子の姿を見つけた。酸素マスクを手に、険しい表情を浮かべている。私を見て爽子が目を丸くした。

「私の父なのっ」