「そうやって、いつも女性を口説くんですか?」

もうこの際、篠宮先生が社会的地位のある人だとか、エリートで将来を期待されているだとか、そういうことは抜きにする。

「わ、私は、遊ばれるのは懲り懲りなんです。ですから、もうやめてください」

「遊ばれるのは、って……真剣だと言ったら?」

「信じられない、です」

膝の上で握り締めた拳が震えていることに気がついた。

「だったら、これから信じてもらえるよう努力するまでだ。俺だって、これでも必死なんだよ」

必死?

いったい、私なんかにどうして?

そもそもそこが納得できない。

「今夜は帰したくない。そこだけは、なにがあっても譲れない。誓ってなにもしないから、今夜だけは俺のわがままを受け入れてほしい」

やはり彼には抗えないなにかがある。ここまではっきり言われてしまっては、断ることなど私にはできなかった。

果たしてなにもしないというのは、本当なのだろうか。半信半疑だったけれど、そこははっきりと断れなかった私にも責任がある。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

「降りよう」

車がどこかの地下駐車場へと停まった。外の景色を見る余裕などなく、うつむきながら過ごしていた私にはここがどこなのかはまったくわからない。