「どうした?」

「い、いえ……」

外の様子が気になってうまく笑えず、さらには声も小さくなる。さっきまであんなに早く帰りたいと思っていたのに、そんな気持ちは一切なくなってしまった。

とにかく今は会いたくない。あれだけひどい振られ方をしたのだ。

心身ともにボロボロになったときのトラウマが蘇って、胸が締めつけられる。もう大丈夫だと思っていたのに、姿を見るとそんなふうには思えない。

だけどこれ以上ここに留まっているわけにもいかず、私は震える手でシートベルトを外そうとした。

そのとき、横目に見えた人影に目を剥く。

スーツの男はこちらに向かってペコリと会釈している。なんともスマートなお辞儀だ。

「あれはたしか、MIYAMOの……なぜ、こんなところに?」

隣で篠宮先生が不思議そうな声を出したが、反応することができない。

運転席側のパワーウィンドウが開いたかと思うと、聞き覚えのある声が飛んできた。

「やはり篠宮先生でしたか。見覚えのあるお車だなぁと思ったもので。お疲れ様でございます」

明るくはつらつとしたワントーン高い声に身を縮める。心臓がバクバクと脈打っていた。もちろん顔を上げることなんかできず、ただじっと一点を見つめながら固まる。

一刻も早くこの場から逃げ出してしまいたい。