そうなんだ、知らなかった。それなら言ってくれればよかったのに。

「かわいいよね、篠宮先生って。柚のこと、めちゃくちゃ大事に想ってる感じで」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。生中継でさり気なく『僕の婚約者です』ってアピってたし、あれはかなり独占欲が強いと見た。そりゃあ、誰が誘っても一向に振り向かないわけだよ」

「そんなことないって」

「あるわよ。この前ので篠宮先生ファンが大勢泣いてたんだからね」

ホテル創立六十周年の記念すべき取材よりも、アクシデントの方に報道陣が食らいつき、大きくピックアップされたその結果。

『トロント大出身の超エリートドクター、婚約者のナースと共に患者を救う』

そう見出しをつけられ、救急車到着までのわずかな時間の私たちのやり取りが全国ネットで生放送された。

あの日の放送はかなりの高視聴率だったらしく、SNSの投稿でもすでに数十万回再生されていて、かなり話題になっている。

SNSの投稿欄のコメントにも『こんなお二人素敵!』『超ラブラブ!羨ましい』『イケメンエリート、最高です!』『こんな恋人がほしい』『羨ましい……!』といったコメントも多数寄せられた。

顔もバッチリ映っていたため、外を歩いていて声をかけられたりすることも。

幸いなことに柊会長の顔は、患者のプライバシーを配慮して映らずに済んだ。それにはホッとしたけれど、次に顔を合わせたらなにを言われるのかがわからないから、気がかりだ。

「復帰は明日からだっけ?」

「うん、そうだよ。不安しかないわ」

「大丈夫よ、生中継なのも気にせず、患者のためにヒールを握りしめて裸足で走れる柚だもん。その一生懸命さは、みんなに伝わってるって!」

「ちょっと! そんなの嬉しくないから」

「あははっ!」

楽しそうな爽子の笑い声が店内に響く。冷めかけのホットミルクティーを飲みながら、私は盛大にため息を吐いた。