ゆっくり時間をかけて話し合っていれば、いつかは柊会長だってわかってくれたかもしれない。それなのに。

「天音さんだってもう子どもじゃないんだ。柚の言葉に励まされて行動に移したんだろう」

「で、でも」

「天音さんがあの男と結婚して幸せになれたと思う?」

押し黙る私を見て、返事を悟った修さんが言葉を続ける。

「すべてを捨ててでも守りたい想いがあったんだよ。だから、天音さんにとって最善の選択をしたんじゃないか? 少なくとも俺はそう思ってるよ」

なんて優しい言葉だろう。心がスッと軽くなっていくのを感じる。

だけど柊会長が黙っていないだろう。どちらかというと優寄りの考えだし、人の話をまともに聞くタイプでもない。

私が天音さんを焚きつけたのは事実だから、またなにか言われるかもしれない。そう考えたら、とてつもなく頭が痛くなった。

「じゃあ、行こうか」

修さんは私の手を取って立ち上がらせると、お店の入口の方へと引っ張る。

「行くって、どこにですか?」

「俺のやり方で守ると言っただろ? 片時も柚と離れたくない。だからこのまま一緒に帰ろう」

「え、いや、あの」

「もう決めたから」

そう言われて抗えるはずもなく、荷物をまとめさせられ修さんの車で一緒に帰ることになった。

畑から帰ってきた両親に告げると寂しがる様子もなく、むしろなぜさっき一緒に帰らなかったんだと反対に怒られてしまった。