溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜


取り残された私たちの間に気まずい空気が流れる。

聞きたいことはたくさんあるのに、どうしてか言葉がひとつも浮かんでこない。こんなことになってしまって、未だに信じられない気持ちのほうが強かった。

「ここが柚の育った家か」

一歩また一歩と部屋に入って辺りを見回す篠宮先生。その横顔は、どこか楽しげだ。

豪華でもきれいでもない古めかしい造りの部屋を、感慨深そうに眺めている。

階段はギシギシしなるし、天井からぶら下がっているのは紐を引っ張って消す式のおしゃれさもかわいげもない電灯。

「恥ずかしいからそんなに見ないでください。それに、古くて汚いから」

「俺は好きだけどな」

「……っ」

好きって私のことを言ったわけではないのに、なぜだか無性にドキドキした。

「広くて無機質な空間よりずっと温かい」

「あの、それ遠回しに狭いって言ってますよね?」

「ははっ」

優しく穏やかに笑う屈託のない笑顔が好きだなと改めて思う。

直視できないほど眩しすぎるのは、似合いすぎるほど似合っているスリーピーススーツのせいだろうか。