ああ、やってしまった。今度こそ会長を本気で怒らせることになるかもしれない。そうなったら、私はまちがいなく帝都大にはいられなくなるだろう。
私ひとりいなくなったところで誰も困らない。本気で次の就職先を探さなくては。
言ったあとでそんな思考が頭をよぎって後悔する。天音さんは押し黙ったまま言葉を発することなく、沈黙が訪れた。
うう、気まずい。だけど、私はまちがったことは言っていないと思う。それだけは自信を持っていえる。
「ぷっ、くくっ」
背後から突然聞こえた笑い声。反動で顔を上げると、そこには上質なグレーのスリーピーススーツに身を包んだひとりの男性の姿。
「し、篠宮先生!?」
驚きのあまり頭が真っ白になる。
開いた部屋の扉近くで腕組みしながら優雅に立つ先生は、ネクタイをきっちり締め、肌なんて見えないのにすさまじいほどの色気を放っている。
「ど、どうしてここに?」
「天音さんが柚に謝りたいって言うんでね」
「え?」
ってことは、ふたりは一緒にここへ?
天音さんを見ると、罰が悪そうにうつむいた。
「一緒にきたわけではないんです。たまたま、柚さんの家の前で鉢合わせて……なかなか入っていけない私の代わりに、お母様に声をかけてくださって」
モゴモゴと口ごもりながら経緯を説明してくれる天音さん。それでも私の頭の中はパニック状態だった。



