気のせいかもしれないけれど、その顔には戸惑いの色が浮かんでいるように見えた。

「待て、まだ話は終わっていない」

「いや、今日はこれくらいにしておきましょう。日下部くんも、業務に戻りなさい」

「え、あ、はい……」

そう言われて、さっと立ち上がる。

「では、失礼致します」

そのタイミングで彼女が私と院長に頭を下げた。

ご令嬢というだけあって、立ち居振る舞いや所作は洗練されている。改めて見れば見るほど、手足が長くスッキリとしたスタイル、ぱっちりとした目が印象的な美人な女性だ。

出て行くときにふと天音さんと目が合い、彼女は途端に眉を下げて悲しげな表情になる。

なにか言いたそうにその瞳が訴えてきた。でもすぐあとに思い直したかのように口元に微笑を携え、私に向かってペコリと頭を下げた。