足が床に着くと、酔っているわけじゃないのにふらついてしまった。すかさず腰を支えられて、ピッタリと篠宮先生の身体が密着する。
服越しだというのに、男らしくてしなやかな身体つきだということがわかって顔が一気に熱くなった。
「そんなに急いで帰ることないじゃないの」
「少し立ち寄るだけのつもりだったからな。ごちそうさま」
慣れた手つきでポケットからお札を数枚出してカウンターに置き、反対の手は当然のように私の手をしっかりと握ってさり気なく微笑む。
「またきてちょうだいね、柚ちゃん」
「あ、はい。ごちそうさまでした」
外に出ると冷たい風が全身を包んだ。けれど、指先に神経が集中してやけに身体が火照る。
「あ、あの、手を」
「嫌か?」
「え、いや、そういう、わけじゃ」
「じゃあ問題ないだろ」
最初から離す気なんてないらしい。がっちりホールドして、ますます強く握られた。なんだか緊張してしまい、なにを話せばいいのやら。
ドギマギしながら歩いていると、篠宮先生がそんな私に気づいてクスリと笑う。
「そんなに俺のことが好きなのか?」
「ち、ちがいます」
「かわいいな、柚は」
「なっ!」
なにを言い出すんだ、この人は。