二人を繋ぐ愛の歌

「っ……!何するのよ!?離しなさいよっ!」

陽人が掴んだ手を必死に振りほどこうと暴れているが、酔っている状態で力が入ってないのか陽人の手が離れることはなかった。
沙弓は直ぐ様ポケットからスマホを取り出すとその様子を写真に納め、普段は全くしないような不敵な笑みを浮かべて見せた。

「『Shineのハルトの女性ファン、ビアガーデンで同じ名前の男性に誹謗中傷。熱狂的なファンのマナーの悪さが浮き彫りに』……なんて記事、週刊紙や新聞にどうですか?」

そう言うと女性二人は一気に酔いが覚めたのか真っ青な顔をして慌て出した。

「ちょっ……やめてよっ!そんな事したらハルト君に迷惑かかるじゃないっ」

「芸能人のハルトには迷惑かけれなくて、一般人の陽人には迷惑かけていいんですか?」

「わ、悪かったわよっ!謝るから、それ消してっ!絶対週刊誌に売らないでっ!SNSもよっ!?」

「ねえ、もう行こうよっ」

やっと周りがこちらに注目しているのに気付いたらしいもう一人の女性が挙動不審気味に周囲を見回しながら促し、二人は足早にその場を去ろうとした。
けれど一度立ち止まってこっちを振り返ったかと思うと沙弓を指差して大声を出した。

「あんたの顔覚えたからっ!万が一その写真バラ撒いたら絶対許さないっ!」

「すみません、私はあなた方の顔なんて覚えられませんので」

間を置かずハッキリと沙弓がそう返すと、女性二人は顔を真っ赤にさせて今度こそ出ていった。

この騒動の中周りの人達は誰一人として動くことも言葉を発する人もいなかったのだが、数秒間が空いた後に誰かが堪えきれないとでも言うように噴き出したのを皮切りに辺りが爆笑と拍手の渦に包まれた。