「手の甲にキス……って、もしかして嶋川さん、彼氏いるの?」

そう声をかけられて後ろを見ると、何故か南尾が呆然とした様子で立っていた。

「い、いませんっ!彼氏なんていませんよっ!!」

「いない?……そっか、良かった……。
でも、彼氏でもない人が手の甲にキスするってどんな状態?」

「それがわからないから遥に相談してるんです……って、それより何か用ですか?」

これ以上この話が続けられることは自分の精神上あまりよくないと判断し、話を変えるために南尾がここに来た理由を聞いた。

社内一のイケメンで恋人にしたいナンバーワンのこの人はそこにただ立っているだけでも女性社員からの注目を浴びる。
その流れで話しかけられた沙弓にも妬みが含まれた視線を向けられてしまうので正直に言えば早くどこかに行ってほしかった。

「あ、ああ……えっと、これは先方からの指名で断れるような事じゃないんだけど……」

どこか呆けていた様子の南尾はやっと我に返ったのか言いにくそうにここに来た理由を話し出した。

ただでさえ注目されていたのに南尾から紡ぎ出された予期していなかった言葉に沙弓は目を見開いて固まり、フロアにいた遥を含めた女性社員達は大声を上げてさらに沙弓に注目したのだった。