それから家に帰っても沙弓の混乱状態は続いた。

よく事故らなかったなと自分でも感心してしまうほどの状態で運転し、陽人に言われた通りに必死に考えてみたのだが思い至ってしまったのは“陽人は好意を寄せているのでは?”という自分本意とも取れる結論に悶絶し、それ以上考えるのを放棄してしまった。

次の日の会社で昼休憩に遥に話せる範囲で陽人の言動とその意図を相談してみたのだけれど、遥はあっさりと沙弓に答えを出した。

「それってもう、沙弓に気があるって言ってるようなもんじゃない」

「いや、でも……それはない、と思うんだけど……」

「私に相談してくるくらい恋愛経験ない癖にそう言いきれる?
わざわざ指名して沙弓を呼び寄せて、自然を装って一緒にお弁当食べて、余計なこと言いそうな知り合いに連れていかれたら急いで駆けつけてきて、帰りの車で何でそんな事をしたのか、その事を沙弓がどう思ったのか考えろって手の甲にキスしたんでしょ?
……最後なんてすごくキザよね、一体どこのアイドルよ」

ーーあなたが大ファンのアイドルです。

とは間違っても口には出せずに遥のデスクに飾られているShineの写真に一瞬だけ視線を移した。
その視線の動きを察した遥は椅子に凭れると、何か納得したように大きく頷いた。

「もちろんハルト君がやったらすごく様になるわよね。
沙弓には悪いけど、他の男がそんな事やったら似合わなさすぎて引きそう」

ーーいや、私には何も悪くない上にやったのはプライベート姿でボサボサ頭だったけれど、間違いなくアイドルのハルトだからすごく様になってたよ……。

と言う言葉も飲み込むが、昨夜の事を思い出してしまい沙弓が僅かに頬を染めていると後ろに誰かが立った気配がした。