最寄り駅にやっとの思いで着き路肩に停車するが運転中と変わらず陽人にじっと見つめられていたがどうにも我慢出来ずにその眼差しから逃れようと視線をさ迷わせているとふっと微笑まれまたドキッとした。

「……俺の父親って普段無口でクールで何考えてるか分からないのに母親に対する独占欲が意外と強かったらしくて、当時交際もしてなかったのに突然ライブ中にプロポーズしてかなり話題になったらしいんだよね」

「へ、へえ……?そうなんだ?」

突然両親の話をしだした思惑が分からずさ迷っていた視線をゆっくりと陽人に戻すと、それに気付いた陽人は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔にもう何度目かも分からないほどに胸を高鳴らせると、陽人は沙弓の視線をもう反らさせないように左手で沙弓の右頬に手を添えるとぐいっと身を寄せて至近距離で真っ直ぐ見つめてきた。

「……俺もさ、最近まで知らなかったんだけどかなり独占欲が強い方みたいなんだよね」

「え……」

「だから、俺の言動の事もっと考えてみて……そしてもっと意識してよ。
俺のことーー」

そう耳元で囁かれて沙弓は思わず強く目を閉じると、陽人が頬から手を離して小さく微笑んだ気がした。

もしかしてからかわれた……?とゆっくり目を開けると愛しそうな眼差しを向けてくる陽人と目が合ってしまい、沙弓はこれ以上ないほど顔が赤くなってしまった。

「送ってくれてありがとう。
また近いうちにね」

そう言って陽人は助手席から素早く降りるとヒラヒラと手を振って一度も振り返ることなく駅へと歩いていった。
その後ろ姿を見つめながら沙弓は熱くなりすぎた頬に両手を当てて、ドキドキと高鳴る心臓を静めようと何度か深呼吸を繰り返したのだった。