「大丈夫だよね?おかしいところないよね?」

文章を打ち始めてどれくらい経ったのか、やっと出来上がった文章を何度か確認してから沙弓は勢いに任せて、えいっ!と送信ボタンに触れた。

“嶋川です。
今日はお疲れ様でした。
きちんとした髪型の陽人さんは見慣れてないので、やはり一瞬誰だかわかりませんでした。”

それだけを送るのにこれだけ時間がかかったのは会社で働き始めて初めて取引先に業務メッセージを送った時以来かもしれない。
そう思っていたら手に持ったままだったスマホが音楽を奏でながら震えだし、沙弓は慌てて画面をタップして届いたばかりのメッセージを確認した。

“仕事お疲れ様。
最初に顔を見た時に首を傾げてたから、そんなことだろうと思ってたよ。
それにしても、顔を見せてるのに“誰だかわからない”って言われると思わなかった”

この文章を打った時、きっと陽人はエレベーターに一緒に乗った時のように困ったような顔をして苦笑していたのだろうことが安易に想像できた。

あの時の陽人は今日会った完璧な髪型で爽やかなアイドルスマイルではない、少し髪を乱して色んな表情をした陽人だった。

「あの陽人さんならすぐに気付ける気がするんだけどなぁ……」

さらに、あのボサボサな頭で前髪で顔を隠しているとより分かりやすい。
無意識に口元に笑みを浮かべてそう思うと、沙弓はそっとスマホをテーブルの上に戻したのだった。