二人を繋ぐ愛の歌

「こちらの方が試供品のビネガードリンクをくださった方ですか?」

キラキラした如何にもアイドルといった感じの笑顔で初対面のふりをして話しかけてきたハルトに沙弓は頷いた。

「事務の嶋川沙弓と申します。
私が配った試供品が偶然にもそちらに行き届いたようで、とても驚いています」

ーー本当に、こんなことになってとても驚いてるんですよ?

と目で訴えるがその想いが届いているのかいないのか、ハルトはさっきと変わらずアイドルのような笑顔のままだった。

「沙弓さんって仰るんですね、あのビネガードリンクとっても美味しかったです!ありがとうございました!!」

笑顔で両手を差し出してきたユウナの行動の意味が分からず沙弓が首を傾げていると隣に座る宣伝部長に腕を肘で突かれた。
 
「えっと……何ですか、部長」

「ぼーっとしてないで、ほら!」

「え、何したらいいんですか?」

部長に小声で急かされても何をしたらいいのか全く分からない。
沙弓が部長とユウナと差し出された両手を交互に見て混乱しかけていると、見かねたハルトが苦笑して口を開いた。

「嶋川さん、ユウナは握手を求めているんです。
すみません、分かりにくかったですよね」

「あ、そうだったんですね。
では……」

まだ差し出されたままのユウナの両手にそっと自分の両手を乗せると沙弓以外の全員が目を丸くした。
何か間違ったのかと思っていたら次の瞬間、ユウナが小さく吹き出しやがて楽しそうに笑った。