二人を繋ぐ愛の歌

「前にさ、俺がまだ実家暮らしだって話しただろ?」

「え?うん、言ってたね……?」

「新曲を作るのに当事者同士が同じ家にいたら問題あると思わないか?お互い気を付けてても何かしらのアクシデントでどんな曲を作ってるか知れてしまう時もあるはずだ。
曲を盗んだ盗まれた、歌詞が似てる似てない……なんてことが後々起こる可能性もあるだろ?」

じっと見つめられて沙弓は思わず頷いた。
確かに、いくら親子だと言っても勝負を挑み挑まれたライバル同士が同じ空間で過ごすのはあまりよくない気がしたからだ。

その頷きを確認してハルトはアイドルスマイルを浮かべると、握られたままだった沙弓の手を少しだけ引っ張りそっと口付けた。

「だからさ、勝負が終わるまでは実家を出ようと思うんだ」

「そ、そう……」

三度目となる手の甲への口付けはピクッと反応するだけに何とか止め、然り気無く手を引いてハルトの手から逃れようとするがハルトはそれを許さないかのように沙弓の指と己の指とを絡めだした。

「ちょっ……ハルト……」

「ねえ沙弓、実家から出たら俺の行く所ってないんだよね。
まさか婚約中で同棲中のユウナの家に転がり込むわけにもいかないし」

戸惑う沙弓と対照的に冷静に話すハルトに沙弓は困ったように眉を下げるがハルトは全く意に介した様子はなく、それどころかさっきまでとは真逆の生き生きとした様子を見せていた。

「だから暫く沙弓の家に同居させてもらおうかと思ってるんだよね」

「は……?」

「協力するって言ったよね?これは沙弓にしか頼めないことだったし。
いやー、沙弓が協力してくれて良かった良かった」

満面の笑みで絡み合っていた手を離し、いつの間にか取り出した割り箸を割って弁当を食べ始めたハルトを沙弓は思考停止した状態で暫く呆然と見つめていたのだった。