二人を繋ぐ愛の歌

「これ、勇菜(ゆうな)が好きそうな味だ」

「ゆうなさん?」

無意識に呟いたのだろう陽人の口から出た女の人の名前に首を傾げると、陽人はほんの一瞬だけしまったと言うような顔をした。

「いや、妹……なんだけど」

「妹さんなんですね。
それじゃあ妹さんの分も良かったらどうぞ」

再び鞄を漁りもう一本試供品を取り出して渡すと、陽人は沙弓の反応や真意を見定めるかのようにじっと見つめてきた。

「……どうしました?いらないです?」

「いや……まったく気付かれてないって言うか、ここまで知られてないなんて、俺達もまだまだだな……」

「??何がですか?」

「もっと仕事頑張ろうって思えたってこと」

苦笑する陽人に首をさらに傾げながら沙弓は陽人と話すために少し屈めていた腰を元に戻すと、自分の腕時計を見た。

「では、私はそろそろ失礼しますね」

「疲れてるとこ長話させて悪かったね。
これ、ありがとう」

試供品を軽く持ち上げながらお礼を言う陽人に微笑んで小さく頷くと、陽人は車が近くにいないことを確認してから車を走らせた。
その車が見えなくなるまで見送ってから一歩踏み出したのだが、なんとなく渡した二本の試供品が後日会社にちょっとした騒動を巻き起こすなんてこの時の沙弓には思いもよらなかった。