二人を繋ぐ愛の歌

「ほ、堀原さんっ!?」

思ってもいなかった人物の登場に驚いていると、堀原は小さく会釈をしてから服が濡れないように気を付けながらしゃがんだ。

「すみません、ライブの途中ですがそのままでは風邪をひきますので此方へ」

「え、でも……」

突然の申し出に戸惑っていると南尾が沙弓の背中をポンッと軽く叩いて身を乗り出してきた。

「言葉に甘えて行ってきたらいいよ。
嶋川さんに風邪をひかれて休まれたりしたら書類が溜まって大変なことになりそうだから」

「……では、少し行ってきます」

仕事の話を出されたら沙弓は頷く他なく、南尾とその奥の上司に軽く挨拶してから沙弓は堀原に連れられてライブ会場を後にした。
来たときとは違い関係者用の通路のような場所を暫く歩かされると、ある一室で堀原が止まった。

「まずはここでシャワーを浴びて温もって今着ている服はこちらへ、バスタオルと着替えはこれを使ってください。
私はここで待ってますけど念のため、鍵も閉めてください」

「え、えっと、あの……」

「時間がないですから早く」

急かされた沙弓は荷物を受け取り、堀原に言われるまま慌ててシャワー室に入って鍵をかけた。
渡された着替えを置いて、濡れてしまった服一式を脱ぐと、恐る恐る一つずつ区切られている中の一つに入った。

かけられたのが温かいお湯だったとしても時間が経てばそれなりに寒い。
何故陽人はレインコート必須なのだと教えてくれなかったのか疑問に思いながら、沙弓は時間がないと言っていた堀原の言葉を思い出してシャワーのレバーを捻るのだった。