「頼む!お願いだ、この通り!後生だから頼まれてくれっ!」

「嫌です、困りますっ!」

「こんなに頼んでるのにか!?」

確かに言葉だけを聞いていたら、願いの一つや二つ聞いてあげたいくらいすごくお願いされているのだけれど、そのお願いの仕方がふかふかの布団の中でお気に入りのふわふわの抱き枕を抱いた状態なのを見ていると、聞いてあげたい気持ちが半減してしまうのは仕方ないと思う。

その体勢なのは長年の労働でついに悲鳴を上げたぎっくり腰のせいなのは重々承知しているけれど、それでも必死のお願いに首を縦に振れない理由はこちらにもある。

「頼むから頼まれてくれ!もう沙弓しか頼める人はいないんだ!」

「だけど、私にも都合が……!」

「沙弓が引き受けてくれないとこの店は……【多幸】は潰れてしまうかもしれないんだぞ!?」

「そんな大袈裟な……」

「それが大袈裟じゃないのよー」

布団で寝込んでいる叔父さんの近くに座っている沙弓の隣に叔母さんが困った様子で座った。
どういうことかと首を傾げると、はぁ……。と溜め息をつかれた。

「沙弓ちゃんも知ってる通り小さなお弁当屋さんの家はある業種からの配達注文でほとんどの収入を賄ってるんだけど、その配達がこの人の担当だったのよ。
私は店番や調理があるから配達にいけないし、だからと言ってその配達を断ってしまったら家はやっていけないのよー。
ああ、困ったわー」

本当に困っているのかも知れないが、元々おっとりとした性格の叔母はのんびりした話し方をしていて危機感もなければ説得力の欠片もなかった。