「もし沙弓さえ良かったらだけど、今日泊まっていってもいい?」

「え……」

陽人が泊まっていってくれればまだまだ一緒にいられる。
それは嬉しいけれど付き合ってもない関係で一晩一緒にいるのは果たしてどうなのだろうか……。

相反する気持ちに揺れていると、陽人は頭を撫でていた手を沙弓の頬にそっと滑らせた。

「まだ何もしないって約束するから泊めて?まだ沙弓と一緒にいたい」

顔を反らすことも出来ずに真っ直ぐ見つめられ、沙弓は早々に白旗を上げると躊躇いがちに頷いた。

こうして陽人は沙弓の家に泊まり、次の日の早朝にライブの為に家を出ることになった。

着替えなどは陽人が持ってきていたスーツケースに入っていたので問題もなく、順番にお風呂に入ってから寝るまでの間、あっかいコーヒーを入れて寛いでいた。

「……そう言えばさ、ずっと聞きたかったんだけど」

カップをソーサーに置いてポツリと話し出した陽人に首を傾げる。
お風呂上がりの陽人は異様な色気を醸し出していて直視できないのでチラッとだけ視線を向けると、陽人は頭を軽く掻いていた。

「あれから南尾とはどうなった?お試し期間を設けるのかどうかの返事を明日するんだろ?」

「あ……」

陽人の言葉に明日南尾に返事をしなければいけなかったことを思い出し、沙弓は手に持っていたカップをそっと置いた。