どれくらいそうしていたのか、時間が経つのも忘れて抱き合っていたけれど不意に陽人の腕の力が和らいだので沙弓もほんの少し陽人から離れてみた。

顔を見てみると陽人は慈愛に満ちた表情で見つめていて、沙弓は咄嗟に視線を反らした。

「そ、そろそろ夕飯作ろうかな……。
陽人も食べていってくれる?」

恥ずかしさのあまり少し早口で言った言葉に陽人はクスクスと笑いながら頷いた。

「せっかくだから俺も手伝うよ。
なに作る?」

「えっと、今ある材料は……」

いろいろ材料を買ってはいたのだが時間の関係で短時間で作れるカレーを作ることになり、沙弓は包丁担当、陽人は味付け担当となった。
完成したカレーはとても美味しくて、今まで食べたどのカレーとも違う味だった。

どうやったらこんな味付けになるのかと食い気味に聞いたけど、陽人は秘密だと言って教えてくれなかった。
また食べたくなったらいつでも作ってあげると言われ、沙弓はまたこんな風にゆっくりとした時間を陽人と過ごせることを期待して頷くのだった。

後片付けが終わればそろそろ陽人が帰るであろう時間になっていた。
明日ライブで会えるとしても、やはりここ数ヶ月あまり連絡もなく会えなかった分離れるのは寂しく感じてしまった。

そんな沙弓の心情を察したのか、陽人は沙弓の手を握ると空いた手でそっと頭を撫でてきた。