「あのCM曲は沙弓と想いが通じあったその喜びを曲にしたんだ。
だから今までの曲にはない感情がこもってたんだほうね」

「そ、そうなの……?」

「うん。
そしてKaiserの……父さんが母さんに向かって歌うあの曲は歌うごとに母さんへの想いが溢れていってたらしい。
プロポーズを前にしてあの曲を歌った時なんかが一番だったんじゃないかって拓也さんが言ってた」

「あ、うん。
私が見たのもプロポーズする直前に歌ってた曲だった」

「……プロポーズが映像化されて全国に出回るって中々ないよな」

苦笑して弄んでいた髪を離した陽人は沙弓の腕を取って少し強めに引っ張った。
突然のことに驚いた沙弓は踏ん張ることも出来ずにソファから落ちるが落ちた先は陽人の膝の上で陽人にしっかりと抱き締められてしまっていた。

「は、陽人……!?」

「今作ってる曲が完成したらそのKaiserの曲すら超えることが出来ると思ってる。
きっとその時が頂点に立つときだと思うから、もう少しだけ待ってて」

肩口に顎を乗せられそう言われると、沙弓は少しだけ躊躇いながら陽人の背中に手を回して小さく頷いた。

実は沙弓の話には続きがあった。

その一番好きなKaiserの曲よりも、今陽人が歌っていた未完成な曲の方が何倍も好きだと。
そう言いたかったのだけれど、やっぱりそれは曲が完成して頂点に立ったとき、その時に告げようと思い沙弓は目を閉じて陽人の温もりを感じることにした。