「……と言うわけで、今度の土曜日会いに行くから」

『ええっ!?』

勇菜が根を上げ堀原から休みを確約したその日の夜、いてもたってもいられず沙弓に連絡するなりそう言うと、沙弓は驚きのあまり電話だということも忘れたのか大きな声を上げた。

「耳痛……驚きすぎ」

『ご、ごめん……て言うか今度の土曜日って今度の土曜日!?』

「沙弓混乱してる?」

くすくす笑いながら言うと沙弓は、だって……。と小さく呟いていた。

無理もない。
今日は日曜日で来週はいよいよ沙弓が見に来るライブの日なのだ。
そんな日の前日に会いに行くと言われたら驚くのが普通だろう。

『あ、会いに来るって何時くらい?やっぱりライブの準備も色々あるだろうから夕方……ううん、夜に少しだけ、とかかな?』

「沙弓さえ良ければ朝から。
その日の為にここ数ヶ月休みなく仕事頑張ったから、丸一日休み貰ったんだ。
だから朝から会いたい」

『え、休みなく?大丈夫?疲れてない?
せっかくのお休みなのに、ゆっくりしてなくてもいいの?』

先程までの混乱はなくなり、心底心配してるかのように声のトーンも下がって聞いてくる沙弓に陽人はふっと微笑んだ。

「全然平気。
寧ろ沙弓に会えない方が無理、しんどい。
だから一分一秒でも長く一緒にいたいし会いたいんだけど……沙弓は?」

わざと甘く囁くようにスマホ越しに語りかけると、沙弓の息を飲むような声が聞こえてきた。

「沙弓……?」

「……陽人はやっぱりズルい……」

こういう話し方をすると沙弓は恥ずかしさから拒否することが出来ないことを察していた陽人はその事を利用するように囁く。
案の定、沙弓は拒否できずに陽人の思惑に完敗したのだった。