『もしもし?誰ー?』

いや、お前が誰だよ。と喉元まで出かかっていたけれど懸命に飲み込んだ。

自分のスマホの画面を確認すると、そこにはちゃんと沙弓の名前が表示されているので自分が間違ってかけたわけではない。
……となると、この女性が沙弓の隙をついて勝手に電話に出たのだろう。

……舌が回っていないようだし、明らかに酔っているな。

溜め息をついて通話を切ろうと思ったら電話の向こうから女性が、声をかけてきた。

『ねー、もしかして沙弓の彼氏候補のダサメンの人ー?』

ダサメンと言うのはもしかしなくても自分のことだろう。

勇菜にも何度か、その変装は確かに正体はバレないだろうけどダサすぎて一緒に歩きたくないレベルだと言われていたから。

答えるべきか否かなんて考えるまでもなく、陽人はずっと黙っていた。
万が一にも声を出して正体がバレてしまったら自分だけでなく沙弓も大変な目に合ってしまうのがわかっていたから。

ずっと黙っている陽人に不審がることもなく、酔った女性は一方的に話していた。

『私、沙弓の同僚の遥って言いますー。
今沙弓が大変なことになってるから愚痴を聞いててー……って、この画面に表示されてるのって名前?ダサメンさん、“陽人”って言うんですねー。
私の好きなShineのハルトと同じ名前なんていいですねー。
あ、それで沙弓が大変なことになっててですねー』

酔っぱらった人が脈絡のない話し方をするのは知っているけれど、この遥と名乗った女性から二回も“沙弓が大変なことになってる”と言ったときには危うく口を開きそうになった。