『いっそのこと俺が迎えに行くか……?でもリハが……いや、終わってすぐに抜け出して戻れば……』

「陽人……?」

何やらぶつぶつと呟きだした声は小さすぎて、どれだけスマホに耳をくっつけても聞こえなかったが、途中に堀原の声が聞こえてきて陽人と言い合いしているのが聞こえてきた。

そろそろ本当に時間がないのだろう。
陽人は不満そうな声で堀原に何か言うと話しかけてきた。

『ごめん、そろそろ切らないといけないから』

「あ、うん。
忙しいのに連絡くれてありがとう」

『こっちこそ、時間ないのに電話出てくれてありがとう。
気になってた南尾との近況も聞けたし電話して良かった。
……懸念要素は増えたけど……』

「え?何?」

またしても最後の方が聞き取れなくて聞き返すが陽人は教えてくれなかった。

『まだ沙弓が来てくれるライブまでかなり日があって、それまで会えないし連絡もまた出来なくなるけど、南尾には十分気をつけて。
……ライブ前に一度だけ絶対会いに行くから。
じゃ、また』

「え、会いに来るって……陽人!?」

よほど急いでいたのか言いたいことだけを言うと陽人はすぐに通話を切ってしまった。

会いに来る。

その一言だけでさっきまでの落ち込みは嘘のように吹き飛んでしまい、沙弓は通話の切れたスマホに表示された時刻を見て慌てつつも心弾ませながら仕事に戻っていった。