二人を繋ぐ愛の歌

「あの、南尾さ……」

「最近社内で噂されてる嶋川さんの婚約者って、あの人の事だよね?」

沙弓が話しかける前に口を開いた南尾は、書類を拾いながら目を合わせずに話す。
沙弓は自分の言いたいことを飲み込むと、そうです。と小声で答えた。

「前に彼氏じゃないって言ってたはずだけど、本当に婚約したの?」

「本当は……全然そんなことはなくて……。
噂がどんどん大きくなって一人歩きしたみたいな……」

「じゃあ婚約どころか前と同じようにまだ付き合ってもない?」

「そうです。
でもいつかは……と私は思ってます」

いつか、陽人が野望を達成して付き合えるとなった時には……。
そう思っていると南尾は集めた書類を手に立ち上がると眉を下げながら沙弓を見下ろした。

「……羨ましいな」

「え?」

「あの彼が羨ましいよ。
嶋川さんにこんなに想ってもらえて、期待してもらえてるんだから」

「期待だなんて……」

集めてもらった書類を受け取ろうと手を差し出すが、沙弓が書類を掴む前に南尾がその書類を背中に隠してしまった。

思いがけない行動に目を丸くしていたら南尾が真剣な眼差しを向けてきて沙弓は息をのんだ。