「あ、この人南尾の……」

南尾と一緒に歩いていたらしい三人の男性の内の一人が沙弓の顔を見て、何か言おうとしたのをその隣にいた男性が肘でつついて止めさせた。

「南尾、俺ら先行ってるからな」

「わかった、俺も後で行くよ」

それだけの言葉を交わすと男性達はその場を去って行き、南尾は沙弓の手に乗せていた手を離すと書類を拾いだした。

「あ、すみません。
ここはいいので、さっきの人達の所へ行って下さい」

「いや、前を見てなかった俺の不注意だから。
それにせっかく会えたんだから、もう少し一緒にいたいな」

にこやかにそう言われて沙弓は困ってしまった。
沙弓には社外に婚約者がいるということになっているが、それでも南尾は事ある毎に沙弓に関わってきた。

たまに食堂で食事をすれば隣にやって来たり、重い荷物を持っていたら助けてくれたり、書類作成のお礼だとみんなで分けて食べれるおやつをくれたり、すれ違う時には少しの会話をしたりと普通の同僚とするようなコミュニケーションなのだけれど、南尾の言動がそれ以上の時があるのを会社の人達は度々目撃していて、南尾は“婚約者のいる沙弓に負けずにアピールしている強者”と言われるようになっていた。

そんな南尾はやはり今になっても然り気無いアピールをするばかりで、明確な気持ちを話してこないので沙弓は未だに対処に困っていた。