結局その日は陽人に連絡することが出来なかった。

後日メッセージを送ってみたが陽人からの返信はなくて、あっちも忙しいのだろうとそれ以上送らずにいたのだけれど、それが三週間以上経つ頃にはさすがに不安に感じてきた。

遥がどんな話を陽人に言ったのかあまり覚えていないし、すごく失礼なことを言って怒らせたのかもしれない。
それとも陽人からの電話に見ず知らずの女性が出たことに怒ってるのかもしれない。

良く考えれば、下手をすれば陽人がハルトだとバレて電話番号が流出したり沙弓とのことがスキャンダルになってしまう可能性もない訳じゃなかった。

考えれば考えるほど悪い方にしか想像できず、もしかしたら呆れられたのかもしれないとまで考えると、自然と目頭が熱くなり視界が滲んでしまった。

いつもは真っ直ぐ前を向いて歩くのだが、今はとてもそんな風に歩けなくて俯き加減に歩いていたら前から歩いてきていた人物に気付かずに、沙弓は思いきりぶつかってしまい持っていた書類をバラ蒔いてしまった。

「あ……すみません」

顔を上げずに謝罪して慌ててしゃがんで書類を拾おうと手を伸ばすと、その上に自分よりも大きな手が重なった。

驚いて顔を上げると、そこには眉を下げて少し困ったような、けれど少し嬉しそうな顔をした南尾がいた。