「そう言えば何となく気になった店があって、そこにはお婆さんがいてさ」

『気になったお店……と、お婆さん?』

「うん、奥ゆかしい感じのお婆さんが一人でやってる店。
いろんな和柄の小物とか売ってて……そこで沙弓にいいなって思った物があったんだけど、そう思った瞬間にお婆さんに“好い人がいるのね”って微笑まれてさ」

『え……っと……』

陽人の話に沙弓は戸惑ったようだったけれど、陽人は気にしなかった。

電話の向こうの沙弓は今、どんな表情をしてるだろうかと想像しながら話すのはとても楽しくて、陽人は出掛けたときに感じたモヤモヤがスウッとなくなっていくのを感じた。

「すごいだろ?沙弓の事を話してもないのにそう言われて驚いてたらそのお婆さん、俺の表情で分かったって。
いつもみたいに顔隠してたのに……ねえ、どう思う?」

『え?……あっ!』

電話の向こうでガタンと何か物を落とす音が聞こえてきた。
明らかに動揺しているのだろうと判断すると、そんな沙弓が愛しく思えて自然と微笑んでいた。

「そんな事聞かれても困る?でも言葉にしなくても知らない人にも伝わってるってことは、沙弓にもちゃんと伝わってるんだろうなって。
そう思うと恥ずかしさもあったけど、それ以上に嬉しくて……。
ねえ、沙弓にもちゃんと伝わってるよね、俺の気持ち」

出来るだけ甘く囁くように言うと、沙弓は小さな呻き声を上げた。