その日の夜、食事も風呂も済ませて後は寝るだけとなった状態でベッドに座りスマホを手に取った。

そろそろ仕事も終わり帰りついた頃だろうと時間を確認し、画面に指を滑らせて発信ボタンに触れると機械的な呼び出し音が鳴る。
何コール目かでその音が途切れた代わりに、少し慌てた様子の今最も聞きたかった沙弓の声が聞こえてきた。

『も、もしもし陽人?久しぶりだね』

「……久しぶり、今は家?」

『うん、たった今帰ったところ』

我ながら良いタイミングでかけたなと思いながら、目を閉じてスマホ越しに聞こえてくる沙弓の声に耳を傾ける。

ライブツアー中は忙しくて中々電話が出来ず短いメッセージのやり取りしか出来なかったので、久しぶりに聞く沙弓の声に心から癒されていた。

早く会いたいーー。
……会いに行ってしまおうか?

わりと本気でそう考えいると、沙弓の声が聞こえてきてゆっくり目を開いた。

『えっと、今日のライブは終わったの?』

「今日はオフだったんだ。
堀原さんが頑張って調整してくれた貴重な休みだよ」

『そうなんだ?ゆっくり出来た?』

「うん、のんびり散歩してきた」

誰にも声をかけられることなく、気兼ねなく一人で。
けれど、もし隣に沙弓がいてくれたら……そうしたら楽しく散歩できたかもしれない。

そう思っていると陽人の視線の先にある机の上に置いた小さな紙袋が目に入り、陽人はゆっくりと口を開いた。