「あらあら……いちばん香りが強いものを匂ったのねぇ。
ええっと……どれだったかしら……ああ、これ、この香りはどうかしら?」

お婆さんはいくつもある袋の中から一つの袋を手に取り、差し出してきた。
陽人は先程の事もあって少し警戒しながら匂ったが、それはさっきのきつい匂いとは違い、すっきりとしていてフレッシュな香りがした。

「……いい香りですね」

沙弓に似合いそうな、どこか落ち着く香りだ。
沙弓のことを思い出して微笑むと、お婆さんはにこやかな表情で何度も頷いた。

「貴方には好い人がいるのねぇ」

「え……」

何故分かったのかと目を丸くすると、お婆さんはクスクスと笑いだした。
そして綺麗に並べられている香り袋に目を向けると、笑みを浮かべたまま口を開いた。

「その穏やかな笑みを見ればすぐに分かりますよ。
その香りで、何よりも先に想い人の事を思い浮かべたのもね……?」

初めて会ったばかりの人に邪気のない笑顔を向けられながらそんなことを言われるとは思いもせず、陽人は顔に熱が集まるのを感じて咄嗟に右手の甲を口に当てると顔を隠すように俯いた。

照れから来るその動作にお婆さんは初々しい者を見るように目尻にたくさんの皺を作って一層笑みを深くしたのだが、お婆さんのその笑みがさらに恥ずかしさに拍車をかけていた。