昔の嫌な記憶を思い起こしてしまいモヤモヤしながら歩いていると、小さな雑貨屋が視界に写った。

引き寄せられるようにその店に入り並べられている商品を見ていると、腰が曲がった柔らかい笑みを浮かべたお婆さんが近寄ってきた。

「あら、若い人が珍しいわねぇ」

元々目が細いのか、開いているのか分からないほど細めた目をこちらに向けてくる。
まさか話しかけてくるとは思わず僅かに戸惑いながら小さく会釈すると、お婆さんは柔らかく微笑んだ。

「ここは昔からあるような古いものばかりでねぇ。
若い人は外人さんくらいしか来ないのよ?」

そう言われて店の中を見回すと、お洒落な置物やストラップというような物が一切なく、あるのは櫛や手鏡、手拭いやハンカチといった和柄の物がたくさん置いてあった。

確かに観光でやって来た外国人が喜んで買っていきそうな物ばかりだと思っていると、一つの小さな袋が目に入った。

その陽人の視線に気付いたのか、お婆さんがその袋の一つを手に取った。

「これは、香り袋って言うのよ」

「……香り袋?」

「若い子の間ではサシェとかポプリとか言われてたかしらねぇ?
この袋の中に香料が入っているのよ」

そう言いながら香り袋を数種類手に取るとそっと差し出してきたので、陽人は一つだけ手に取って匂ってみた。

それは少し香りが強く思わず眉を潜めてしまったが、お婆さんはそれを見ても穏やかに笑っていた。