「それでさ、もし良かったらこのライブ一緒に行かない?」

「え……」

思いがけない南尾の誘いに沙弓が戸惑うと、南尾は苦笑した。

「ああ、言葉が足りなかったね。
俺実はライブとか行くの初めてで、出来れば誰かと一緒に行きたいと思ったんだけど俺と嶋川さん以外にチケット貰ったのが上司ばかりで……」

「それは確かに一緒に行きづらいですよね……」

「まあ、別々に行っても席は近いんだけどね」

仕事でもないのに上司と一緒にライブ会場まで行くなんてとてもじゃないが遠慮したいその気持ちは沙弓もよく分かるし、何より初めて行くライブが一人で心細く感じるのも共感してしまった。

「……私もライブは初めてでよく分からないので、一緒に行ってもらえると助かります」

「うん、じゃあ一緒に行こう」

そう嬉しそうに笑った南尾に沙弓は少しだけ申し訳無い気持ちになった。

はっきりと気持ちを伝えられたわけではないが、陽人や遥が言った通りに南尾が沙弓に好意を寄せてくれているのは今の会話で確信できた。
けれど沙弓はその想いに応えることが出来ず、かと言って告白されたわけでもないのだから拒絶することもできない。

陽人だけでなく南尾とも微妙な関係になりつつあるのを感じて沙弓は深い溜め息をついたのだった。